世界自然遺産に登録された小笠原諸島のうち、有人島である父島の面積の60%、母島の面積の70%、無人島の聟島列島(北ノ島、聟島、嫁島、媒島)、父島列島(兄島、弟島、西島、東島、南島)、母島(姉島、平島、向島、妹島、姪島)、火山列島(南硫黄島、北硫黄島、西之島)が登録されています。

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地球で唯一、海洋性島弧の発達過程を知ることができる島

小笠原諸島は、日本列島から1000km離れており、一度も大陸と陸続きになったことのない海洋性島弧と呼ばれる島です。大陸と繋がったことのある島は、陸性島弧と呼ばれます。小笠原諸島の地層は、4800万年前のプレートの沈み込み開始から4000万年前の定常状態になるまで、一連の島弧進化過程が完全な状態で残り、大陸形成機構の地質学研究ができる唯一の島です。また、海洋性島弧から大陸へと進化するプロセスも進行中です。

顕著な適応放散により海から陸への進化過程を知ることができる

https://www.vill.ogasawara.tokyo.jp/heritage/heritage_touroku/

小笠原諸島が世界自然遺産に登録された理由として、海洋島における生物の進化を示す典型的な生物たちが生息していることも理由の一つです。

小笠原諸島の特に母島、石門ルート周辺に生息しているカタツムリ類に適応放散による種分化が顕著に見られています。適応放散とは、元々同じ種類の生き物が環境の違いによってそこに適した形や色へと変化し、多統計にわかれることを言います。例えば、木の上で暮らすものは淡い色の、土の上で暮らすものは暗い色の殻を持つなどの進化をしています。

カタツムリが小笠原諸島に生息するようになった経緯は、①流木などの漂流物の中に潜んでいた②鳥が運んだ③風に乗ってきた、の3つの方法が考えられており、中でも黄砂やPM2.5のように「③風に乗ってきた」が最も多かったのではないかと考えられています。

亜熱帯性の植物と日本国土由来の植物の共存

https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/07ogasawara/common/pdf/19_01.pdf

海洋島弧は、熱帯に位置することが多いのですが、小笠原諸島は、亜熱帯地域に位置しています。アカテツやムニンヒメツバキ、シマホルトノキ、シャリンバイ、シマイスノキ、アデク、モクタチバナなど、東南アジアなどの亜熱帯起源の植物が多く、ナガバキブシやチチジマキイチゴなどの北方系、ムニンフトモモやムニンビャクダンなどの南方系の日本国土由来の植物も共存しています。さらに多様な種が独自の種分化を遂げた結果、多くの固有種が生息する島になりました。適応放散し独自の進化を遂げたカタツムリが生息できているのは、こういった特異な環境のおかげであるとして、植物を基盤とする生態系が評価され、世界自然遺産登録となっています。

父島と母島の植物体系の違い

小笠原諸島は、それぞれの島弧によって気候が異なることが特徴で、父島と母島も気候が異なるために植物形態が異なります。

父島や兄島は、高い山がないため、雲ができにくく、比較的乾燥状態にあり、乾性低木林となっています。乾性低木林には、シマイスノキ、シャリンバイなどがあり、小笠原に生えている乾性低木林のうち、約70%に当たる69種が固有種に認定されています。

母島には、乳房山(標高462m)という高い山があるため、雲ができやすく、霧も発生しやすいため、南硫黄島、北硫黄島と並んで湿潤環境を保ちやすいという特徴にあり、特に母島の市街地から6kmほど北部に位置する石門山には、シダ植物や苔類が繁茂し、湿性高木林が多い植物体系になっています。湿性高木林には、シマホルトノキ、ウドノキ、オガサワラグワ、センダン、ムニンエノキなどの固有種が含まれています。

世界で石門だけにしか生えていない植物がある

母島は、父島よりも原生林が保持されており、特に石門山周辺はガイドなしでは入れないエリアになっており、固有種になりやすい海洋性島弧であることに加え、小笠原諸島でも珍しい地盤が石灰岩であるカルスト地形であることから、世界で石門にしか生息していない貴重な植物があります。その植物には、「セキモン」が冠せられ、「セキモンウライソウ」と「セキモンノキ」があります。

小笠原諸島が世界自然遺産に登録された理由

小笠原諸島には、小笠原諸島にしか生息しないアガカシラカラスバトやハハジマメグロ、オガサワラノスリなどの鳥やオガサワラオカモノアラガイ、アケボノカタマイマイなどのカタツムリ、オガサワラオオコウモリなどの哺乳類がいますが、そういった生物が生まれ、そして現在でも生息できているというこの環境を形作っている固有の植物の生態系が評価され、世界自然遺産に登録されました。