アメリカ・サンフランシスコの「監獄島」 アルカトラズ島とは

サンフランシスコの美しい街並みの対岸、わずか2.4キロメートルの沖合に浮かぶ、不毛の岩島――通称「ザ・ロック(岩)」。それがアルカトラズ島です。雰囲気は日本の「軍艦島(端島)」にも似ています。
かつてアメリカで最も恐れられた「絶対脱出不可能」の連邦刑務所でありながら、現在は年間100万人以上が訪れる屈指の観光地となっています。
今回は、この島に眠る伝説の脱獄劇から、ゾクゾクするようなナイトツアーの体験談、そして離島としての意外な素顔まで、その魅力を余すことなくお届けします。
隔離されたアルカトラズ島の歴史〜要塞から「地獄の監獄」へ〜

アルカトラズの歴史は、離島ならではの「孤立した環境」と切り離せません。
1850年代のゴールドラッシュ時代には湾を守る軍事要塞となり、その後、軍事監獄を経て1934年に連邦刑務所となりました。
周囲を囲むのは、太平洋から流れ込む氷のように冷たい海水と、素人では泳ぎきれない凄まじい激流。この天然の要塞は、全米の刑務所で手に負えなくなった「最悪の凶悪犯」を収容する最終目的地となったのです。
伝説のギャング、アル・カポネや、殺人犯でありながら鳥類の研究家となった「バードマン」ことロバート・ストラウドなど、歴史に名を残す犯罪者たちがこの島で服役しました。
アルカトラズ島の最大のミステリー

1962年の脱獄劇アルカトラズ刑務所の29年間の歴史の中で、36人の受刑者が14回にわたり脱獄を試みました。そのほとんどが射殺されるか溺死しましたが、たった一度だけ、今も謎に包まれた「成功(?)」とされる脱獄劇があります。
それが1962年6月、フランク・モリスとアングリン兄弟(ジョンとクラレンス)の3人が起こした前代未聞の事件です。
スプーン1本から始まった緻密な計画彼らは食事用のスプーンや手製のドリルを使い、1年以上の歳月をかけて監房のコンクリート壁を削り、通気口を拡張しました。削った壁の破片は、美術の授業で使った絵の具で作った偽物の壁で巧みに隠されていました。
巧妙な「身代わり人形」と脱出決行の夜、彼らはベッドに紙粘土と本物の髪の毛で作った生々しい「身代わり人形の頭」を配置。見張りの看守を完全に欺き、通気口から建物の外へ脱出しました。さらに、50着以上のゴム製レインコートを盗んで接着し、手製のいかだと救命胴衣まで作り上げていたのです。

翌朝、ベッドの人形に気づいた刑務所は大パニックに陥りました。FBIによる大規模な捜索が行われましたが、見つかったのは海に浮かぶレインコートの切れ端だけ。遺体も発見されず、彼らの行方は今も分かっていません。この事件の翌年、アルカトラズ刑務所は閉鎖に追い込まれました。このエピソードは映画『アルカトラズからの脱出』(クリント・イーストウッド主演)として実写化され、世界中に知られることになります。
静寂と恐怖が包む「ナイトツアー」の全貌

アルカトラズ島を訪れるなら、圧倒的におすすめなのが1日に数便しか運行されない「ナイトツアー」です。「ナイトツアー」は世界中から予約が殺到するため、旅行が決まった瞬間に公式サイトでの確保をおすすめします。
夕暮れ時、ピア33からフェリーに乗り込みます。島に近づくにつれ、サンフランシスコの街の眩い夜景が遠ざかり、目の前には街灯の少ない暗闇の孤島が迫ってきます。上陸すると、冷たい海風とともに、どこか張り詰めた空気が肌を刺します。鳥肌が立つ音声ガイドと、鳴り響く鉄格子の音メインの監獄棟(セルハウス)に入ると、観光客にはヘッドホンが配られます。この「アワード受賞の音声ガイド(日本語対応)」が秀逸と評判で、元受刑者や元看守の本物の肉声、そして暴動時の爆発音や叫び声がリアルに再現され、まるで当時の刑務所にタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。
「ナイトツアー」だけの特別な演出として、監房の鉄格子が一斉に閉まるデモンストレーションが行われます。「ガシャーーーン!!」という耳を聾する金属音が暗闇の棟内に響き渡る瞬間は、背筋が凍るほどの恐怖と臨場感です。
「独房(ホール)」の闇に身を置くツアーでは、規律違反者が入れられた窓のない真っ暗な「独房(Dブロック)」の中に入ることもできます。わずか数秒間、扉を閉められて完全な暗闇を体験するだけで、当時の受刑者たちが味わった精神的な絶望感が胸に迫ります。対岸からは楽しげな街の喧騒や音楽が風に乗って聞こえてくることがあり、受刑者にとって「すぐそこにある自由」こそが最大の拷問だったと言われています。
アルカトラズ島の意外な素顔

野鳥と花々が咲き誇る楽園恐怖の歴史にフォーカスされがちなアルカトラズ島ですが、現在の姿は驚くほど美しい自然の離島です。そもそも「アルカトラズ」という名は、スペイン語でペリカンを意味する「Alcatraces」に由来します。
刑務所閉鎖後、人がいなくなった島には自然が戻り、現在はカモメやシラサギ、ウミウなど、数千羽の野鳥が巣を作る西海岸有数の「鳥たちの楽園」となっています。また、島内には色鮮やかな「アルカトラズ・ガーデン」が広がっていて、かつて、過酷な島生活の中で看守やその家族たちが心の癒やしとして植えた植物が、ボランティアの手によって蘇ったものです。
冷たいコンクリートの廃墟と、逞しく咲き誇るバラやゼラニウムのコントラストは、この島でしか見られない美しさです。
最後に
徹底的な防寒対策をカリフォルニアとはいえ、夜のサンフランシスコ湾は信じられないほど冷え込みます。厚手のジャケットや風を通さないウィンドブレーカー、そして島内の急な坂道を歩くためのスニーカーは必須アイテムです。島内は飲食禁止水以外の飲食は制限されているため、フェリーに乗る前にサンフランシスコ側で食事を済ませておきましょう。歴史の闇、未解決のミステリー、そして美しい夜景と自然。サンフランシスコを訪れる際は、このドラマチックな離島へ、一歩足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。