昨今、海洋プラスチックごみ問題がニュースなどで取り上げられ、プラスチックが悪者にされがちですが、その通りなのかもしれませんが、水産業においてプラスチックの使用は必須です。漁業関係者が使用するプラスチックにはどんなものがあるのか、そしてプラスチックであることの必要性、海関係者のプラスチックに対する取り組みなどを紹介します。
目次
プラスチックが抱える問題点
プラスチックの使用によって日々の生活は便利になり、プラスチックを使わない日はないほど深く生活に浸透しています。
プラスチックはどんな形にも成形しやすく、物性を調整でき、軽くて丈夫、安価である事が使われやすい特徴であると思われます。

しかし、プラスチックには大きく2つの問題があります。
1つは温室効果ガスであるCO2の発生です。プラスチック原料の生産、成形加工、焼却する事で都度CO2が大量に発生しています。
もう一つが海洋プラスチックごみ問題です。
海洋プラスチックごみ問題とは
陸、海問わず発生した大量のプラスチックごみが海に流れ出る事により様々な弊害を引き起こしているという環境問題のことを「海洋プラスチックごみ問題」と呼んでいます。

海に流れ出たプラスチックは自然環境でほとんど分解されず、海中に漂流または海岸などに漂着しているため、どんどん海に蓄積されています。
レジ袋の有料化など脱プラスチック活動が活発になっているのは海洋プラスチックごみを増やさないためでもあります。
このままのペースでプラスチックの生産量が増え続ければ、2050年には海に捨てられたプラスチックの総重量が魚の総重量を超えるとの予想もされています。

出典:world economic foram2016年報告書The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics
プラスチックが海中に留まる事で、大きく3つの問題があります。
海洋ゴミ問題①生物の誤食

クジラやウミガメ、鳥類が餌と間違えてレジ袋、プラスチックなどを食べる事があり、胃の内容物からプラスチックが見つかっています。
海洋ゴミ問題②マイクロプラスチック

プラスチックは自然環境でほとんど分解されませんが、時間をかけて海水や紫外線などによって粉々になります。そのため目に見えないほどの大きさになっても海中に存在し続けます。これが大きさ5mm以下のマイクロプラスチックと呼ばれるものですが、この大きさになると回収することは非常に難しくなります。
また、プラスチックは製造過程で様々な化学物質を含んでおり、さらに海洋中の化学物質を吸着するおそれがあります。そのため、マイクロプラスチックが生物に取り込まれたときの影響が懸念されております。
海洋ゴミ問題③ゴーストフィッシング

“ゴーストフィッシング (幽霊漁業) とは 、 漁場に残存する網漁具に生物が絡まって 死亡したり 、漁 場に放置された、かご漁具に生物が「漁獲」されて 死亡し 、その死骸が餌となって生物を誘引することで、新たな「漁獲」が次々に引き起こされる現象 をいう。”
(水産庁漁業取締本部境港支部より引用)
不慮の事故などで網漁具が流出したものがこの問題を引き起こしていると考えています。ゴーストフィッシングを発生させないために、天然繊維の利用など検討されていますが、現状の漁法ではコストに見合った生産性を得るためにはプラスチック製漁具を使用することが多くなっています。
牡蠣養殖に使用するプラスチックの必要性

広島県で有名な牡蠣養殖でもプラスチックを使用しています。
広島の牡蠣は垂下式という方式で養殖しています。垂下式とは、筏から垂らしたワイヤーに牡蠣の幼生を付着させたホタテ貝の殻(盤殻)とプラスチック製の牡蠣パイプを交互に通した方式です。牡蠣パイプは盤殻同士の間隔を空けるスペーサーの役割を果たしており、牡蠣同士が干渉し、成長を阻害する事を防ぐためにも必要なものです。

広島地区では、約10,000台の牡蠣筏が湾内に設置されており、ざっと計算すると牡蠣パイプの使用数は2億本を上回ります。
*約700本のワイヤー/筏×牡蠣パイプ35~40本/ワイヤー×広島地区の筏10,000台。
牡蠣の収穫はワイヤーごと回収して行い、その際に牡蠣パイプも回収し、洗浄して次のシーズンにも使います。
牡蠣パイプは作業時に多少の流失もありますが、台風などでワイヤーが切断したり、他の船が筏に衝突するなどして意図せず海に大量に流失する事があります。
この大量に牡蠣パイプが流失する問題を養殖業者のみで解決することは困難であると考えています。
海にプラスチックを蓄積させないために

漁業にはプラスチックが流失する可能性がある現状を踏まえ、私たちは海にプラスチックを蓄積させないための2つの取り組みを紹介します。
生分解性プラスチックの利用と、漁網をリサイクルするための再生原料の製作です。
SDGsの達成すべき目標14“海の豊かさを守ろう”の10個のターゲットの内、一番初めに14.1として
“2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。”
と表記されています。
これは国連サミットで採択されており、先進国も発展途上国も取り組むべき問題です。漁具メーカーもSDGsのための活動を始めています。
生分解性プラスチック漁具の試作品
環境省事業(二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金 脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業)の補助を受けて、事業申請者:ニチモウ㈱、共同事業者:西日本ニチモウ㈱、のグループによって、その海洋分解性のメカニズム探究や漁業現場における利用適性を調査中です。
- 生分解性牡蠣パイプ

- 生分解性原糸

- 生分解性たこつぼ

再生原料の試作品
- 再生原糸
再生原糸からトワイン(原糸を撚り合わせた細いロープ)を製綱

- 再生トワイン

漁具を悪者にしないために
現状の漁法では牡蠣パイプのように漁具にプラスチックは必要不可欠なものです。
根本的に漁法を変更する事はさらに困難です。
漁師の方々も休業中に海岸清掃でごみの回収や海底清掃(漁具等で海底のごみを回収する事)を行っていますし、環境省、水産庁をはじめとした官公庁、民間企業のメーカーも生分解性プラスチックやリサイクルなどの漁具への活用を進めています。